専門学校で知り合ったAさんは、付き合えば付き合うほど、「俺たちが一番強いんだぁ!」と勘違いしてしまう、そんな不思議な魅力を持っている人でした。10代後半、20代前半の男の子は、誰でも「俺が世の中で一番偉い」とか、「一番ケンカ強い」とか思っているものです。私は典型的なそういう人だったと思います。
そういう心構えや身なりをしていると、そういう連中が近寄ってくるものです。元来ケンカが嫌いな私は、そういう人たちを近づけない方法はないかと考えました。そして私が考え出した方法は、そういう人たちよりも怖い風貌になることでした。
黒ずくめの洋服に丸坊主でサングラス、本当にケンカになったら負けないように筋トレばかりしている。そんなイキがっている時期が、私の18~20歳。本当に世間知らずで、怖いもの知らず。いまじゃ怖くてできませんが、男の子ならそういう時期は誰にでもあるんじゃないでしょうか?
私は、幼い頃、吃音で悩んでいたことがあり、学校の先生からも同級生からも吃音をからかわれたことがあります。そういうことがあると吃音者にとっては、喋らないほうが楽に生活できるんです。喋らなければバカにされることもないし、傷つくことに怯えながら生活する必要もなくなります。そんな経験があったから、私は人より怖い格好をして、他人と話さなくても済むような生活を望んでいたのです。だから私は、Aさんと一緒にいることで、誰よりも強い自分を手に入れようとしていたのです。
吃音について少しだけ触れておくと、私の吃音の程度は低いレベルだと思います。いまではほとんど気になりません。成長とともに治っていったのか分かりませんが、幼い頃は両親も私の吃音に悩んでいたことを覚えています。
私が大きくなって、社労士事務所を始めた頃、近所に吃音の専門家が、吃音を治療する会社を作ったというので見学に行ったことがあります。そこには吃音者が数人来ていたのですが、私が吃音で悩んでいたのがバカバカしくなるくらい重度の方たちでした。
吃音者は、話すことのほかは、一般人とまったく変わりないのだけれど、話したくても声が出ないんです、喋ろうとしてもつっかかっちゃうんです。だからやっぱり仕事となると支障があります。普通の人は電話に難なくでれるけれど、吃音者だとそうはいかない。受話器は取れるけど、そのあとの声が出ない。第一声が出てこないのです。
私は、サラリーマンをしているときも、電話に出られなくて困ったことがありました。電話が鳴るとそれだけでプレッシャー。胸がドキドキしてめちゃくちゃ緊張するんです。新入社員だと、電話出ることが仕事だから絶対に電話には出なければならないというプレッシャーもあります。ちゃんと電話にでられないと、いじめてくる上司もいます。私は、電話が嫌いで会社を辞めたこともあります。
いま18~20歳の頃の自分を振り返ると、つくづく弱い男だったなと思います。きっと私の知らないところで、いろいろな他人に嫌な思いをさせたこともあったでしょう。
勉強の大きな収穫物の一つに、他人の気持ちが分かるようになれたこと、分からないとしても、分かろうとしてあげることが出来るようになったことがあります。勉強をする前までは、すべて自分が中心で他人の気持なんて考えたことがなかったんだろうと思います。
大学を卒業する頃だったと思います。自分の部屋を掃除していると、むかし大切にしていたものや、その当時の写真などが出てきました。そのとき自分は完全に変わった、むかしのような弱い自分から完全に生まれ変わったと思いました。そして、もうあの頃のような自分には戻りたくないと思い、ぜんぶ過去のものはきれいさっぱり捨ててしまいました。
私の10代、20代を知っている人にお会いすると、「なんか人が代わっちゃったね!」「むかしと表情が全然違うね!」と言われます。
こう言われると勉強してきて本当に良かったなと思います。
つづく
